- RIN KUU KI -
琳空記
go to LinkAge HP >>>


1999/09/22 「おはよう」
毎日、朝のお勤めと朝食を済ませたら「お斉(オトキ)」に出かける。
その日が亡くなられた方の命日にあたる門信徒さんのお宅を訪問し、
お仏壇をお参りしてまわるのが、その「お斉」だ。
「お斉」は、五十回忌(五十年目)の命日まで、毎月続けられる。
「月忌参り」とか「檀家参り」とかとも言われたりするが、
いわばこれが私たち坊さんの、毎日のレギュラーワークになるわけである。

昼間のうちにお参りに行くことになるので、家の留守番は大体がお年寄り。
独り暮らしや老夫婦だけのお宅っていうのもけっこう多い。
東京から富山に移住して、「お斉」に行き始めたばかりの頃は、
お経をあげた後のしばらくの時間を、どうしたらいいのかと結構困った。

たとえば八十数歳のおばあちゃんと二人、ひとつの部屋で向き合い、お茶を飲む。
「・・・・・。」
共通の話題っていってもなかなか見当たらない。
仏の教えを説くといっても、年輪を重ねたその存在感の前では、自分はまだまだ未熟過ぎる。
調子のいい感じでバカ話とはいかない状況だ。
いままでの生活は、近い年代だったり、同じような趣味があったりする人との関係が
ほとんどだったんだということに気付かされ、しばし途方にくれる・・・。

だけど富山に移住してこれで9ヵ月目。ようやく「お斉」にも慣れてきて、
どうにかコツもつかめてきた。

コツその1、あいさつは元気よく
コツその2、話題のつかみは天気のことから

「ごめんください」「おはようございます」「こんにちは」
「いい天気ですね」「今日も暑いですね」
「雨が続きますね」「ちょっと肌寒くなってきましたね」
「ありがとうございました」「じゃ失礼します」

あいさつと天気の話題は、どんな人とでも共有できる。
どんなにつまらないことでも、どんなにわかりきってることでも、
とりあえずは目を合わせ、声を掛け合うことで、コミュニケーションが始まる。
そしたらなんだか次の話題も出てくるし、出なきゃ出ないでなんとか間が持つ。
目の前の人との距離感がちょっとでも近くに感じられた日は、なんだかうれしい。

これからもずっと門信徒さんとの「お斉」の付き合いは続くのだから、
時間をかけて、こころの距離を少しづつでも縮めていければいいと思う。
そしたら「お斉」の時間を共有してきた人たちがいつか亡くなられたときにも
いいお葬式ができるかな、とも思うのだ。


<前へ 次へ>

『琳空記』のTOP PAGEへ>>>



e-mail: hougu@link-age.or.jp