ご縁とはつくづく不思議なものだと思います。
2023年10月30日。36回目の東京国際映画祭のスクリーンの前に、
法衣姿の私が立っているなんて。
そもそものご縁は今年の春。たまたま富山に訪れられて、たまたま岩瀬に宿泊されていた葛井ご夫妻が、たまたま琳空館に立ち寄られて交わした会話がきっかけでした。
お二人はとても自然で素敵なたたずまいで、どんな方なのかと関心をもった私がお尋ねすると、共に映画関係のお仕事をなさっていると答えられたのでした。
映画を観ることは大好きだし、若い頃には映像作家を夢見ていつもハンディカムを持ち歩いて街撮りしていたほどの私。興味津々でお話しを伺っていると、旦那さまの葛井克亮氏は、KUZUIエンタープライズという映画配給会社の代表をなさっていて、80年代90年代にあったミニシアターブームの、言わば「仕掛け人」。そして奥様のフラン・ルーベル・クズイさんは、ニューヨーク出身の映画監督で『バッフィ・ザ・ヴァンパイア・キラー』という欧米では知らない人はいないという程のティーンズムービーのヒット作を撮られた作家さんとのこと。
そして何より驚いたのが、私が19歳で初めて上京したときに、初めて新宿で観た『TOKYO POP』という映画のディレクターがフランさん、
そしてその製作が葛井氏だったのです。
当時はミニシアターでインディーズ映画を観るのが若者文化の最先端という時代でした。富山と東京の文化格差はインターネット時代の今では考えられないほど大きくて、地方の片隅の小さな港町に住む私には、音楽や映画やファッションなどの最新情報は、ただ憧れの眼差しで雑誌を眺めることしかできないような時代でした。
アメリカ人女性が異文化の土地、東京を初めて訪れて、日本人のロックミュージシャン(26才のダイヤモンド⭐︎ユカイさん!)とたまたま出会って恋に落ち、やがてそれぞれの人生を歩み始めるというストーリーの『TOKYO POP』。80年代の活気あふれる東京を舞台に撮影されたその映像は、新生活に期待で胸を膨らます当時の私にとって、どれだけ「ストレンジでクールな世界」に映ったことか。エンドロールが終わって席を立ち、映画館を出たときに吸い込んだ街の空気から、私の10年間の東京生活がスタートしたような気がします。
ニューヨークなども旅してすっかり都会人気分になっていた私ですが、東京に住み慣れてしまった頃には本編の主人公たちと同じく挫折や迷走や葛藤を経験し、やがて富山に帰郷することを決めて、実家のお寺に入り僧侶になって。いつの間にやら25年が経ちました。
そして、住職としてのキャリアを重ねて僧侶としての自覚もようやく身についた2023年10月、葛井ご夫妻からのうれしいご招待!『TOKYO POP』4Kデジタルリマスター版特別上映を鑑賞する機会をいただいて、その上、お二人の舞台挨拶にご一緒して、映画がつなぐ不思議なご縁についてのお話をすることにもなったのです。
本編のストーリーそのままに、縁は異なもの、味なものです。
主演のキャリー・ハミルトンさんは、惜しくも癌のため38歳で亡くなられたとのこと。映画の最後のシーンで、全身から命を輝かせるようにして唱うスクリーンの彼女は、このご縁をつないでくれた天使のように見えました。
会いたかった古い友人にまた会えたような気がして、自然と目が潤んできました。
人生には辛い別ればかりではなく、そこから始まる出会いもあります。
縁は異なもの
生きているということは 悪いことばかりじゃない
素晴らしいなあと、本当に思います。
写真撮影:本多 元