(慶) お寺での礼拝の対象として本堂の内陣の中心に安置されているのが「ご本尊」です。
家庭での礼拝の対象も、絵で描かれた「ご本尊」すなわち浄土真宗では「阿弥陀如来像」なわけですが、家のお仏壇はお寺の内陣を小型化したものなのだと、木本仏具店のホームページ
www.仏壇富山.jp )にはありますね。

(木) そうです。お仏壇は家の中のお寺のような存在です。亡くなられた方に手を合わせ、ご先祖さまに手を合わせ、阿弥陀さまに手を合わせて、極楽浄土に導かれることを祈り、信じるための場所なのです。

(慶) 仏壇が家庭に普及し始めたのはいつ頃からなのでしょうか?

(木) 仏壇が一般に普及し始めたのは江戸時代の後期の頃からだと言われています。かつては庄屋をしていたお宅の古くて立派なお仏壇を洗い直ししたところ、文化文政年間の日付が記されているのが見つかりました。このお仏壇が木本で修復させていただいた最も古いものですが、おそらく7〜8代程前から受け継がれているものでしょう。

(慶) 慶集寺のある東岩瀬は古い町なので、昔から住まわれているお宅には、代々伝わる年期の入ったお仏壇もあります。

(木) 戦時中に焼けることがなかったので、古い町並みが残っている地域ですね。

(慶) そうなんです。けれども岩瀬は、少子高齢化、更には過疎化が進んでいる地域でもあるので、空き家になってしまう家も年々増えてきています。いま岩瀬に住まわれている年配の方々のその次の世代は、岩瀬とは別の地域に家を建てて住まいされているケースがほとんどなので、代替わりになったときに、自分たちの生活空間に古いお仏壇を遷されるかどうか。

(木) お仏壇をお遷しする場合には、それを安置するのにふさわしい場所があるかどうか、
まずはそこから考えなければいけません。

(慶) 残念ながら、空き家の解体と一緒に仏壇を処分されるケースも多くあります。

(木) 古いお仏壇を修復して維持されるかどうかは施主さまのお気持ち次第だと思いますが、一番大事なのはお仏壇に安置されるご本尊なので、古いご本尊の軸装を修復して、お仏壇を新しく求められたところに、再びお軸をお掛けし直すという方法もあります。

(慶) 代々のものを引き継ぎながら、新しく始め直すということですね。そういう意味では、古いお仏壇を修復して、その機会に新しいご本尊をお迎えするということもありえます。

(木) 歴史的な価値のあるお仏壇だとしたら、多少費用がかかっても修復することをお勧めする場合もありますが、お仏壇の躯体が古くて修復が無理という場合もあります。

(慶) そうなると、仕方がないですよね。

(木) 総合的に検討してアドバイスできるのは仏壇の専門家である仏具店の仕事ですから、お客様のご希望をお聞きして、後悔しない判断をしていただくためのお手伝いをさせていただくことが、私たちにできることだと思います。

(慶) 最近では現代的なリビングにも置けるような、シンプルなデザインの仏壇を選ばれる方もいらっしゃいますね。

(木) お客様のお好みに合わせて選んでいただくだけの豊富な種類があります。
大事なのはお仏壇に安置されるご本尊ですし、日々の生活の中で手を合わせようとする気持ちこそが、一番大切なことだと、私は思います。






(慶) これまでの木本仏具店の歴史のなかで、最もお仏壇が売れた時代はいつ頃ですか?

(木) 昭和40年代から平成初期までの頃です。

(慶) 高度経済成長からバブルの頃の時代ですね。

(木) その時代は、家や庭や車、そしてお墓などがよく売れた時代と重なると思います。お墓とお仏壇は、家督を継いだ家父長のステータスとしてあったので、立派なものであればそれだけ、その家が立派であるかのように思われていた時代がありました。けれども、仏壇を買われたらそれで安心されて、そのままお参りをしないで扉はいつも閉まりっぱなしというケースもあったと思います。もったいないことです。

(慶) 車を買ったら運転しなければ意味がないのと同じで、仏壇を買ったらお参りをしなければ意味がありませんね。

(木) まったくです。

(慶) 昭和平成の時代のお仏壇は、どれぐらいの年月お参りできるものなのでしょうか?

(木) 戦前のものとは違って、良い接着剤を使っていて壊れにくいので、半永久的にお参りできると思います。金箔が擦れたり、ろうそくのススが付いたりすることはありますが、その分だけよくお参りされた証にもなります。車のように一生のあいだに数回乗り換えるようなものではなく、世代を越えて代々お参りしていただけるものですし、時代が経ってもそんなに古くはならないものです。

(慶) 仏壇は半永久的だとしても、それを安置する家の方は古くなっていきますね。同じ家に代々に渡って住み続けて、その家を継承していく人がいれば、仏壇も同様に維持されていくでしょうが、現代では同じ家族であっても別居することが当たり前にもなっています。

(木) 現代の30代40代の世代が新しく建てて住んでいる家や、マンション・アパートでは、ご両親がお参りされていたお仏壇をお遷ししようと思っても、お仏壇を安置する仏間自体がありません。お墓の継承が難しい時代だということが最近よく言われていますが、お仏壇の継承は、家の継承にもつながるように思われます。

(慶) お仏壇を引き継ぐ人がその家を継ぐ人であるのだとしたら、団塊世代ほどの年代の方々にとっては、今はまだ小さなお孫さんが、お仏壇と一緒に家屋や土地を引き継ぐ相続者になる可能性もありえますね。

(木) 私たち日本人は、高度経済成長に専念するあまり、日々の生活にあった大切な時間や空間を疎かにしてしまったように思います。けれども幾分でもその大切さに気づいて、家族一緒に考えていただきたい。便利なものが溢れかえっているような生活のなかで、今の私たちが本当に求めているものは何なのか?家族みんなで一緒に仏壇をお参りするような習慣を、もう一度取り戻すことは、まだ不可能ではありません。

(慶) 心のなかに積もってしまいがちな悩みや迷いやストレスを、一度リセットできるような場所や時間が、住まいの中にあるといいですよね。何にも考えずに、ほっとできるような。
安心しててもいいような。ゆるされているような。

(木) ただ食べて寝て生活するためだけに家があるなら、それはただの巣に帰るようなものだと思います。日常的な生活空間のなかにこそ、背筋を伸ばして手を合わせ、心をひとつに向けられるような。気持ちがスッとするような場所と時間があった方がいいのです。





(慶) 先代からのご縁が引き継がれる場合もあるし、新たなご縁をいただいてお付き合いがはじまる場合もありますが、仏事や仏壇に関することを任せられたかぎりは、お寺にも仏具店にもそれに応えるだけの確かな「 信念 」がなくてはならないと思います。
木本社長にとっての「 信念 」とは、何なのでしょうか?

(木) 時代の流行りや価値観によって仏壇の形は変わってきましたが、遺された者が亡くなられたご家族を想う心は変わりません。仏壇の形は変わっていったとしても、お客様の心の底にある「 想い 」を受け止め、お客様に合ったお仏壇をご提供してまいります。木本の理念は創業から現在に至るまで、また将来に渡っても変わることはありません。
ではこちらからも、住職にとっての「 信念 」は、何ですか?

(慶) 「 南 無 阿 弥 陀 仏 」の心を伝えるということに尽きると思っています。南無阿弥陀仏の心を「 ご先祖さまからの願いの心 」と言い替えてもよいと思います。いまここに生きる私に呼びかけられる、心からの願いの声が「 南 無 阿 弥 陀 仏 」なのだと、聞いています。

日々の生活にお念仏の声が聞こえるような生き方を、ご縁の方々にお勧めしていきたいです。そのためには、そのきっかけとなる「 仏縁 」が大切です。かけがえのない人を失われたときに、今の自分があるためには無くてはならない「 ご縁 」のあって、おかげさまでありがたく、今の自分のあることに気づいたときに、自然と「 なんまんだぶ 」と声に出るのだと思います。

(木) 私たちは、お仏壇を販売しているのではなく、仏様やご先祖様を敬う心の向かう「 きっかけ 」をご提供しているのだと思っています。仏様の世界につながる「心のかけ橋」として、木本佛具店の仏壇が、お客様の心に届けば幸いです。

(慶) お仏壇は大切な「 仏縁 」ですね。

 慶集寺もまた「 心のかけ橋 」でありたいと願っています。






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