身体に煩悩を引き寄せてしまう「 肉 」がこの身に付いている限り、
人間であることの苦しみを、完全に克服することはできない。

そう思い詰められたシッダルタは、ただ一人いばらの束に座して、
さらに徹底した断食に挑まれます。

栄養も水分も極限まで減らし、一日一粒の米、一粒の豆、一粒の胡麻、

そして完全な断食。


骸骨に皮膚と毛髪だけが付いた顔に落くぼんだ瞼を固く閉じ、
枯れ枝のような手と脚を左右対称に組んで、じっと樹の下に静座されるシッダルタ。

苦行林に入って、もうすでに、六年の月日が経っていました。

極限までに肉体性が削ぎ落とされたその身体は、
強靭な精神力だけでかろうじて人としての形を保っていました。

一切の肉が無くなり、筋に神経が張り廻らされているような胴体には、
真っ直ぐに伸びた背骨とそれに横組まれて並ぶあばら骨が、
浮き上がって見えています。

六年間の苦行の末の、まさに、死の寸前。


人間の苦しみを克服するために立ち向かった苦行のはずなのに、

結局は何の問題の解決も無く、自分の苦しみに、ただ苦しむだけ苦しみ、

ついにはやがて死んでしまうことに、どんな意味があるのか?


シッダルタは自らの生存の限界を見極め、

苦行林から出ることを決意されます。




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